

文系?理系?医学はどっち?
私は20年モノの古い車に乗っている。先日、その車が突然動かなくなり、修理に出した。案の定複数の箇所が故障していた。幸い部品はそろっているとのことでほんの数日で我が家に戻ってきてくれた。希少な部品を揃えていてくれる修理屋さんには本当に感謝である。
私は医師なので日々患者さんの治療に当たっている。しかし、残念ながら今の医療の世界はまだまだ自動車修理にように「条件さえ揃えばほぼ100%修理が完遂」する世界とは程遠いのが現状である。
昨今は遺伝子治療などの先進医療が著しく進歩しているため、「病院医療に任せていれば安心」というイメージを多くの人が持っているかもしれない。しかし、現場の医療は未だに「確率論」でしかないのだ。中高年になると多くの方々が飲んでいるコレステロールの薬。「これさえ飲んでいれば大丈夫」と思って飲まれているかもしれないが、実際は「119人の患者さんが飲んでやっと1人の心筋梗塞を発症を防げる程度」なのだ。
薬を飲んでも無駄と言っているのではない。119人に1人でも、かけがえのない命を救えるのならそれは非常に大きな成果である。しかし、その1人に入れるのかどうかが「確率論」であるということに変わりはない。「それならば、副作用も考えて私は飲まない」という選択肢だって、その人の人生にとっては間違いではないのである。
確かに「医学」は 理系の学問である。しかし「現場の医療」の世界では正解のない「文系的」な世界がほとんどを占めているのだ。この症状だからこの薬、この病気だからこの薬、と数式的なマニュアル対応で済む話ではなく、患者さん一人一人の目を見て、密なコミュニケーションを取りながら、全てをオーダーメイドで対応しなくてはならないのである。
私は文系の経済学部出身 の医師でもある。今後もより「文系的な医療の世界」が広がることを願っている。
(本記事は令和元年9月20日掲載の森田洋之著、南日本新聞「南点」のテキスト版です。)