
今知っておくべき『病院が減っても○○があれば大丈夫』のワケ

2019/11/17
こんにちは森田です。
何回か言っていますが、先日、「再編・統合すべき公的病院のリスト」が厚労省より公開されましたね。
で、公的病院だけなのかな〜?と思っていたら、やっぱり!民間病院もデータを公開するそうです。
病院の再編・統合 民間病院の診療実績データなど公表へ調整
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191112/k10012174901000.html
これからは病院が減る時代なんですね…。
今回は、その背景の簡単な解説と、そんな時代に必要な医療についてお話します。
なぜ病院・病床を減らすのか?
なぜ今日本は病床を減らそうとしているのか?
それは国内の事情ばかりを見ていてもわかりません。
そう、世界に目を向けてみると見えてくるのが、実は日本は世界一の病床数を持っている、と言う事実。
しかも、それは僅差で一位とかではなく、断トツ一位なんですね。
米・英など世界をリードする先進国の5倍の病床を持っています。

(2019 OECD staticsより)https://data.oecd.org/healtheqt/hospital-beds.htm
まあ、日本は世界一の高齢化率を誇る国ですので、それも仕方ないかな…?
と思うのは早計です!
なぜなら、世界各国は平均寿命を伸ばし、高齢化社会を迎えながら、それでも病床を減らし続けているのですから。
(縦軸が平均寿命、横軸が人口あたり病床数) 動画作成:著者
多いのは病床ばかりではありません。
CTやMRIなどの高度医療機器も断トツ世界一。

(2015 OECD staticsより)https://data.oecd.org/healtheqt/magnetic-resonance-imaging-mri-units.htm#indicator-chart
さらに、外来受診数も世界2位。

これだけ医療の需要量も提供量も多いなら、医療費が高くなるのも当然…。
国際比較でもそうですが、日本国内の医療提供量で見ても、県によって約3倍程度の差があります。で、その分医療費も高くなる。

出展:財政制度等審議会 財政制度分科会 議事要旨等 平成30年10月30日 資料2
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia301030/02.pdf
国際比較でも断トツ1位の病床数。
しかも、病床数が多ければ医療費も増える。
そりゃ、国は増え続ける医療費を抑えるため、病床数を減らそうとしますよね…。そこは理解できます…。が、、いくらお金がかかっても、医療の問題は命に直結する話です。多少お金が余計にかかっても、ちゃんとしてほしい!と思いますよね。
でも実は、『多すぎる病床』を起点に発生する問題は、医療費の高騰ばかりではないのです。
むしろ、今から上げる3つのほうが本質的には大きな問題だと言えるでしょう。
世界一の病床数、
何が問題?
1,医師の過重労働
世界的に見てもこれだけ医療の提供量・需要量が断トツで多いのに、「医師数」で言うと実は日本は平均以下なのです。
■日本と世界の人口あたり医師数、国際比較

人口千人あたり医師数の国際比較(Health resources - Doctors - OECD Data)
https://data.oecd.org/healthres/doctors.htm
世界一の量の医療を提供し続けている日本の医師。それなのに医師数がこれだけ少ないのであれば、医師の労働環境がブラックになるのは当然です。
医療の現場では、当直明けの医師が翌朝も勤務し手術を執刀するなんていうことが当たり前に行われています。
徹夜明けで疲労困憊のパイロットが操縦する飛行機に乗りたいという人はいないでしょう。つまり、世界一の病床数や医療機器・外来数というのは、ひいては医療を受ける国民の側にも不利益になってしまう可能性が大きくあるわけです。
では医師をもっと増やすべき?
それももちろんそうかも知れませんが、それにもまして本質的な議論をするならば、「なぜ日本人はこんなに多くの医療を受けているのか?」の方こそが問い直されるべき問題ではないでしょうか。(そこには患者を増やすほど経済的に利益を得られる『医療市場システム』が大きく関与していますが、今回はそこには触れません。)
2,病床は多いのに救急車はたらいまわし
これだけ病床が多いのだから救急患者はどこの病院も受け入れてくれるハズ、と思ったら以外にそうでもないですよね…。
事故や急病で近くの病院に飛び込んでも、「対応できる科がない」などの理由で処置してもらえないことは容易に想像できます。
救急車に収容された患者が、何十件の病院に問い合わせても受け入れ先の病院が決まらず、いわゆる「救急のたらい回し」の問題が発生し話題になったこともありました。
これは、日本の病院の多くが救急対応に強い巨大総合病院ではなく、救急症例に対応しにくい「中小病院」だからということが一因としてあります。
今回、国が打ち出した「病院の統合案」は、その弱点をなんとか克服したいという意図もあるでしょう。そうなれば、病院・病床が減っても国民にとってはかえって安心できるのかも知れませんね。
3,患者さんが生き生きしていない
そしていちばん大事なのがこれ。
世界一病床が多い日本では、その多くの病床は「慢性疾患の患者さん」で埋められている、ということです。
一般の方がイメージされるような「大きな手術や治療などで入院な必要な患者さん」は一部の病床にしかいないのですね。
そして、入院されている慢性疾患の患者さんの多くは「住み慣れた我が家に帰りたい」と願っています。


実はこうした患者さんの多くは自宅に帰ることが出来ます。(自宅での医療・介護サービス体制さえ整えば、ご家族の負担も最大限軽くなります。)
しかもご自宅に帰ることが出来た多くの患者さんは、元気になります。病院では寝たきりで意識もなく、「自宅でお看取りだけ」という話だったのに、自宅に帰ったら元気に話したりご飯を食べだした。という笑えない話も多く経験しています。
これは、病院という空間がそもそも「治療の場所」であり、安全・安心が最優先されるため、
・転倒が心配→「ベッド上安静」
・誤嚥や窒息が心配→「絶食」
などの対応が基本になってしまい、どんどん体力が落ちていってしまう…ということも一因として大きいと思います。
人間の四苦と言われる「生老病死」ですが、実は病院や医療で解決できるのは「病」の部分のみ。自然現象である「老化」や「死」の部分は医療では解決出来ません。
欧米の先進国に比して日本の病院・病床が多いのは、この「老」や「死」の部分を医療や病院に依存してしまっていることに大きな要因があるようにも思えます。日本人の死に場所は8割が病院ですが、アメリカは4割、オランダは3割ですから。
プライマリ・ケアがあれば大丈夫。
では、日本の1/5しか病床がない欧米には、病院の代わりに何か別のものがあるのでしょうか?
あります。それがプライマリ・ケアです。(家庭医療とか、広い意味では総合診療ともいいます)
でも、あまり「プライマリ・ケア」 なんて聞いたことないですよね。
プライマリ・ケアとはこういうものです。
◯ 子供から高齢者、予防から治療まで、心も体も全ての診療科に対応してくれる
◯ 対応できない問題のときは総合病院や専門医を紹介してくれる
◯ 治らない病気に対しても、ご本人の希望にしっかりと寄り添ってくれる
◯ 医療だけでなく、介護や地域の集まりなど、ネットワークで対応してくれる
まあ、簡単に言えば
『子供から高齢者、急病から老衰の看取りまでどんな困りごとにも対応してくれる地域のかかりつけ医』
みたいなイメージでしょうか。
実はこのプライマリ・ケア、諸外国では当たり前に各地域に配備されています。WHO(世界保健機構)でも「地域医療の中心的存在」として大いに推奨されています。世界では、病院が少ない代わりに、こうした地域密着の医療が根付いているのですね。
たとえば「頭痛」一つとってもその原因は、・内科・耳鼻科・脳神経外科・歯科・精神科・薬剤性…など多岐にわたります。日本の患者さんは、どの診療科に行く自分で選んで決めなければなりません。でも、プライマリ・ケア医は、全ての診療科の知識を持って総合的に診てくれます。そういう教育を受けているのです。必要なら専門医を紹介してくれます。こんな道先案内的な医師が地域にいてくれる、しかも子供から高齢者まで、予防から治療、お看取りまで対応してくれるのですから、かえって安心かもしれませんね。
プライマリ・ケアの先進国であるイギリスでは、医師の約半数が大学卒業後すぐにこうしたプライマリ・ケア研修を受けプライマリ・ケア医になるとのこと。そんな医師が地域にしっかりと存在するという世界は、(近くに中小病院はないかも知れませんが)かえって羨ましい状況かもしれません。
プライマリ・ケア医はどこにいる?
では、この日本において『プライマリ・ケア医』はどこにいるのでしょうか?
実は、このたび日本で始まった『新専門医研修制度』で、プライマリ・ケア医として期待される『総合診療専門医』という新しい資格ができました。国は、新人医師の3〜4割がこの総合診療専門医になることを想定されていたらしいのですが、蓋を開けてみたらなんとたったの2%しか希望がなかったという残念な結果でした…。
実は日本の医師は『臓器別専門医』になることが前提で教育を受けていることが多く、『プライマリ・ケア医』は残念なことに圧倒的に少数派なんですね。
というのも、実は先述のイギリス では「プライマリ・ケア医(GP)」という職業が、サッカー選手やニュースキャスターと方を並べるほどの人気職種で、国民全体から信頼されているのです。一方日本では「プライマリ・ケア」と言う言葉自体がまだまだ未発達で浸透していない状態。かなりの差がありますね。…ですので、この「2%」という状況も仕方ないのかも知れません。
まあ、それでも日本プライマリ・ケア連合学会のホームページには、学会認定の専門医・指導医の一覧が掲載されいてます。
日本プライマリ・ケア連合学会/専門医・認定医・指導医の一覧
悲しいかなやっぱり数的に非常に少ないですね。僕が住んでいる鹿児島県で言えば、専門医が2人、認定医21人、指導医18人と、とてもとても全ての地域をカバー出来る人数ではありません。
ではどうすればいい?
実はプライマリ・ケア学会の認定資格がなくても「プライマリ・ケア」の精神で診療に当たられている開業医の先生は、地域に数多くおられます。本当に地域に根ざして子供から高齢者まで、予防から看取りまで対応してくれる、赤ひげ先生のような、Dr.コトーのような先生。
でも、どの医院、どの先生が『プライマリ・ケア』の精神を持たれているか、そんなことは一見してはわかりません…。
そこを見分けるポイントが『在宅医療』だと思います。
在宅医療にも対応している医師を探す
本来、在宅医療はプライマリケアの一部に過ぎないのですが、現時点では日本の医療界で最もその精神を受け継いでいる分野の一つだと思います。
というのも、
・在宅患者さんは基本的に複数の疾患を抱えられていることが多いので医師の総合診療的な能力が問われる
・在宅患者さんは「自宅で最期まで」と希望される方が多いため、病気を治す医療ではなく、最後まで「本人中心」の生活を支える医療を提供できるかどうかが問われる
そんな分野の医療だからです。
発熱などの急病を診てくれる外来診療に加え、高齢になったり障害があったりで通院が困難になった方にも「本人の希望に沿った医療」を自宅に届けてくれる。何かあれば総合病院の高度医療へすぐにつないでくれる。
そんな先生があなたや家族や地域の健康を守ってくれていたら、こんな安心なことはないですね。
そのためにも、あなたのかかりつけ医、またお近くの医療機関が『在宅医療』にも対応してくれるのか、問い合わせてみるのは「プライマリ・ケア医」を探すうえで非常に有効な方法一つだと思います。
ちなみに、僕は地元の鹿児島県の『在宅医療マップ』を作っていますが、全国各地でこういうマップが出来るといいですね。
鹿児島県版『在宅医療実績マップ』
以上、今知っておくべき『病院が減っても○○があれば大丈夫』のワケ、でした。
皆様の健康な生活にとって、一つの参考になれば幸いです。
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