
新型コロナパニックで医療崩壊を起こさないために。いま最も大切なこと。

2020/3/17

こんにちは、医師&医療経済ジャーナリストの森田です。
コロナ騒動も収まる気配なく…ついにヨーロッパでも患者激増ですね。
特にイタリアはかなり酷いようで…ここ数日で感染者数も死者数も激増しています。Youtubeの動画を撮っても、編集しているあいだに数字が全く変わってきちゃう…(;_;)
いや,そんなレベルの低い話ではなく!
なんとイタリアは現実に医療崩壊しているんじゃないかと言う話もちらほらでてきております。
韓国・イタリアで医療“崩壊”地獄 無防備なPCR検査で医療従事者の感染招く 医師・村中璃子氏寄稿 https://t.co/XiAaE2ogZP
— zakzak (@zakdesk) March 12, 2020
僕はイタリアに行ってないので実際に医療崩壊しているのかどうかは知りません。でも、同じような医療崩壊が日本でも起きるのではないかと予想されている方もおられます。
こちらの記事の方は、経済コンサルタントの方が試算した「人工呼吸器の実数」から日本の医療崩壊を予見した記事です。(表示の都合上、僕がリツイートしたものを掲載します。)
ピークカット戦略(集団免疫戦略)は地獄への道で舗装されている by @satobtc https://t.co/Wu7j1HHT0e
— 森田洋之@自著「破綻からの奇跡」発売中! (@MNHR_Labo) March 17, 2020
簡単に要約しますと、
・日本で現在使用可能な人工呼吸器は約6万台(出典あり)
・日本で集団免疫を獲得するには国民の70%がコロナウイルスにかかる必要がある
・罹患者の大半は軽症だが、5%は重症で人工呼吸器が必要
・人工呼吸器は一人あたり15日使用と仮定
・以上より、計算上日本で集団免疫を得るまでにはなんと3年もかかる
・その間に人工呼吸器のキャパシティを圧倒的に上回る時期が来て、医療崩壊が起きてしまうのではないか?
というもの。
確かに、諸々の仮定が正しければそういうことになりますね。
恐ろしい事です。
ただ僕は、この説には一つ大きな要素が欠落していると思っています。
今回お話するのはその話なのですが、それにまつわるデータを見つけたのでご紹介します。
こちら、ノーベル賞の山中伸弥先生と新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副議長の尾身茂先生の対談です。
こちらの対談の中で使われていたのグラフ。

簡単に言うと、
「感染者」は、30代以降の中年層に多いけど、
「死亡率」は、高齢になればなるほどどんどん高くなる!
ということですね。
で、この死亡率のグラフ、今回の新型コロナウイルスのずっと前にどっかで見たことあるな〜、と思って思い出したのがこちら。
年齢階級別「肺炎」死亡率

出典:日本呼吸器学会誌第2巻第6号(2013) 特集-肺炎- p.665 図2
そう、実はコロナ肺炎に限らずもっと広い意味での「肺炎」において、そもそも高齢者は死亡率が圧倒的に高いのですね。「高齢者に死亡例が多い」というのは、新型コロナ肺炎で突然始まった現象ではないということです。
では他の病気、例えばガンや心臓病などと比較して、「肺炎死」は多いのでしょうか少ないのでしょうか。
それがこのグラフ。

出典:平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/kekka03.html
わかりやすくするために、赤い線で囲んだところが「肺炎」です。
80代を超えると、「肺炎」が死亡原因の1位か2位くらいまでに上昇してくるのが分かると思います。
グラフの緑の部分が「老衰」ですが、そういう意味では「老衰」に近い年齢分布です。
つまり、「肺炎死」は
・高齢になればなるほど増えるもので
・その数は全死因のトップクラス(80代以降では特に)
ということがデータから分かると思います。
では、なぜ高齢になればなるほど「肺炎死」が多くなるのでしょうか。
それは、超高齢で寝たきりになったりしてだんだん体力が衰えて来られた方々、「老衰」の過程を辿られておられる方々、そういう方々はそもそもが肺炎になりやすく、肺炎を繰り返しながら亡くなられる、という過程を辿られる方が多いからです。
誤嚥性肺炎(唾液や食べ物が気管から肺に入って起こる肺炎)もそうですが、若い人なら当然回復するインフルエンザも、老衰の過程をたどっておられる超高齢の方々は容易に肺炎を合併して死に至ってしまいます。
誤解を恐れずに言うのなら、「肺炎」は、「老衰」の過程の一形態であり、実は本質的な問題は「老化による体力・免疫力の低下」なのです。そういう意味では、最終的に死因が「新型コロナ肺炎」でも「インフルエンザ肺炎」でも、「誤嚥性肺炎」でも、または「老衰」でも、それほど重要なことではないんじゃないかな?と僕は思っています。
いま、コロナ肺炎で世界の死者が8千人、日本でも29人など報道がありますが、そもそも日本人の「肺炎死」と「老衰死」はほぼ同じ毎年10万人です。合わせて20万人の方々が毎年肺炎と老衰で亡くなっているのです。そしてその殆どがご高齢の方々です。
では、その全員に対して人工呼吸器などでの高度医療が行われているのか?と言うと全然そんなことはありません。統計データがないのであくまで個人的な経験則の話になってしまいますが、90代以降で、在宅医療や施設医療など、病院への通院が難しくなったような段階のおじいちゃん・おばあちゃんの場合、人工呼吸器管理までに至ることはむしろ稀なケースと言っていいと思います。
というのも、実は高齢者医療・終末期医療の現場で本当に求められているのは、「最後の救命」にもまして「最後まで楽しく自分らしく生活すること」のほうが圧倒的に多いのです。
長い時間をかけて信頼関係を築き、膝を突き合わせて話し合っていけば、多くのケースで「胃ろうはしないで最期まで口から食べたい」とか「もう人工呼吸器に繋がれてまで救命・延命はしてほしくない」、「最期まで自宅で好きなように暮らしたい」などのお話を聞くことができます。

(写真は病院での延命治療のイメージです)
もちろん、若い人の肺炎は、抗生剤の点滴、人工呼吸器、その他諸々の高度医療技術で全力で救命するのは当然です。たとえご高齢でも、今回のようにクルーズ船で世界一周しようと思われるような体力のある方々には同じように全力で救命するのも当然です。
しかし、毎年肺炎で亡くなられる10万人のうち、そうした方々がどれだけおられるのでしょうか?むしろそうした方々は少数派で、多くは「老衰」の過程の一形態としての肺炎死なのではないかと思います。
こんなことを言うと「高齢者は死ねというのか!」と怒鳴られそうですが、それは誤解です。医療業界の一部には「高度医療の提供に年齢制限を」などという声がありますが、そんなことは言語道断だと思います。医療者はあくまでも脇役で、人生の選択肢を決定するのはご本人とご家族ですから。医療者にとって大事なことは、その気持ちを傾聴し、揺れ動く気持ちにそっと寄り添いながら人生のたそがれ時を支えていくことなのです。
僕は10年ほど前に夕張市で、故村上智彦先生と夕張のじいちゃん婆ちゃんからこのことを教わりました。でも、今はもう国全体でACP=人生会議が推進されています。これまで少なかった「老衰死」も今や死因の3位にまで上がってきました。
新型コロナウイルスもインフルエンザも感染症なので急にやって来るイメージですが、実はそのずっと前から徐々に超高齢の方々の体力低下は起こっているのです。その準備さえしっかりしておけば、多分みんなが人生を最期まで楽しく全うできるでしょうし、医療崩壊に至るまで人工呼吸器が埋まってしまうことにはならないのではないかと、僕は思います。
*そういう意味では、国の感染症対策にも今の「感染症」や「公衆衛生」の専門家の先生方に加えて、「高齢者医療・終末期医療」の専門家も国のコロナウイルス対策専門家会議に参加するべきなのかもしれません。(してるのかな?)
…では、そのための準備…具体的にはどうすればいいのでしょうか。
それぞれのケースで様々な形があると思いますが、参考までに2つの方法をご提示したいと思います。
①緩和ケア医/プライマリ・ケア医/家庭医/在宅医/総合診療医を探す
こうした「人生のたそがれ時に寄り添う」と言う分野を扱う医療の分野はそんなに多くありません。
特に、消化器内科や心臓外科などの臓器別専門医の医師にとってこういう分野は専門外であることが多いです。
その点、上記の5つの分野の医師は、「患者の人生に寄り添い、最期まで幸せに生きる支援をする」ことを教育されています。
最近は各診療所・クリニックでも、ドクターの経歴が公開されていることが多いですので、かかりつけ医を選ぶ際、ホームページで
■緩和ケア医
■プライマリ・ケア医
■家庭医
■在宅医
■総合診療医
などの「キーワード」を確認するのも一つの参考になるでしょう。
②「もしバナゲーム」
「何のきっかけもなしに準備なんて出来ない!」
とお思いの諸兄も多いのではないかと思います。
そんなあなたにおすすめなのがこちら、「もしバナゲーム」。

このカードを使えば、「人生の最終局面」にまつわる話しづらい話題をみんなで考えたり、話し合うことが簡単に出来てしまいます。
また、ゲームを通して友人や家族にあなたの思いを伝え、理解してもらうきっかけにもなります。
ゲームのプレイの仕方は「ソリティア」「ペアーズ」の2通りありますが、ここでは詳細は省きます。
お正月などお子さんやお孫さんが集まったとき、さり気なくこたつの上にこのカードゲームがあったりして、「じゃ、みんなでやってみようか」なんてことになったら、面白そうですね。
「ウチのお母さん、そんな事考えてたんだ!」
とか
「お父さん、××よりも○○のほうが優先順位高いんだ!」
など、意外な発見があること間違いなしです。
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考えてみれば人間の死亡率は100%
超高齢になってからコロナだインフルエンザだと急に慌てるより、しっかりとそれまでを楽しく生ききる方法をみんなで考える、というのも選択肢の一つとしてはいいのかもしれませんね。
以上、
新型コロナパニックで医療崩壊を起こさないために。いま最も大切なこと。
でした。
(補足)
ちなみに、夕張市は財政破綻で病院が閉鎖され市内の病床数が171から19に激減したにもかかわらず市民に健康被害なく、逆に救急車の出動も半分になったのですが、その背景には、こうした「じいちゃん・ばあちゃんの思いに寄り添い、最期まで生き生きと生活することを支える」という医療側の姿勢と、「人生の終わりに向き合うじいちゃん・婆ちゃんたちの覚悟」があったからだと思っています。
(補足2)
日本の年齢階級別の肺炎死のグラフに比べて中国のコロナウイルスの死亡率のグラフのほうが、若干左より(=若い人の死亡が多い)にも見えます。日本の通常肺炎では60代の死亡率はほぼゼロですが、中国のコロナでは3〜4%程度の確率で亡くなられていますから。中国と日本では医療事情が違うからそうなるのか、日本でも同じような結果になってしまうのか、現時点ではデータがないのでよくわかりません。今後のデータに注目したいと思います。
なお、イタリアではコロナ死亡者の平均年齢は81歳との報道もありますので、やはり右よりなのかもしれません。