入院と在宅…その選択は誰が決めるのか?

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入院と在宅…その選択は誰が決めるのか?

森田 洋之

 

 

「家に帰りたいです」

90代のその女性は力強くそう言った。

私が救急当番をしていた県内の病院、彼女はご家族に連れられて受診した。

前日からの発熱と咳で食事も取れず、その日はもう立つことも出来なかった。

検査の結果は肺炎。

普通に考えれば当然「入院」。

そんな私の思いをよそに発せられたのが彼女の冒頭の発言だ。

ご家族は不安顔。

たしかに医学的な見地からは「入院治療」が正解だが、超高齢患者の入院は「病気は治った、でも寝たきりになった」という事態も大いに想定できる。

私はその病院で在宅医療も担当していたので、なんなら在宅で点滴も解熱剤も抗生剤も投与出来る。しかし、帰宅直後に亡くなられるような最悪の事態も容易に想像できるし、実際に私はそうした事例を少なからず経験している。

入院?在宅?医者でも正直迷う。

以上のすべてを御本人・ご家族に説明したうえで、私は御本人にもう一度「どうしたい?」と訊いてみた。

「帰りたい。」彼女の意思は変わらない。

私は言った。「迷った時は本人の希望が一番です。家に帰りましょう。私は今夜この病院で当直、何かあれば病院はいつでも受け入れ可能です。いつでも連絡してください」と。嬉しさで涙ぐむ彼女と握手をして別れた。

翌朝ご自宅に電話で容態を確認したところ、「飲み薬が効いてすっかり元気になりました、朝ご飯も食べてます」とのことだった。

万一のことまで想定していた私は、心底からホッと胸をなでおろした。

しかしこのときはたまたま結果が良かっただけ、何が起こるかわからないのが医療の世界だ。

それでも、私は「ご本人の思い」を何よりも優先出来る医療になってほしいと願っている。

なぜなら、「どんな人生を送りたいのか?」それは我々医師の課題ではなく、ご本人の人生の課題だからである。

その選択をそっと支援できる、陰ながら支えられる、私はそんな医療を目指したい。 

 

 

 (本記事は南日本新聞「南点R1/7/12に掲載されたものです)

 

 


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