妻と女子会から医師の本懐を学ぶ

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【医師直伝】

2019/10/12

 

10年ほど前、妻から衝撃の一言を聞いた。

 

「体調が悪い」と言うので 体温やノドなど一通り診察し「ああこれくらいなら大したことない、大丈夫」と言った後のことだった。

 

「何が大丈夫?私がいつ『診察してください』ってお願いした?そんなこと求めてない!」と。

 

医師として正しく診断をしたのに…まさか非難されるとは思わなかった 。私は非常に困惑した。

 

その困惑の答えがわかったのは一人で訪れたあるレストランだった。隣席から聞こえてくる女子3人の雑談。3人のうちの一人が、「へ〜」「そうだよね〜」「分かる〜」話題変わって、また「へ〜」「そうだよね〜」「分かる分かる!」と繰り返す。

 

よく聞けば、その会話にはほとんど意味はない。自分の生活や恋愛の現状を赤裸々に語るだけで相手からの的確な助言や建設的なアドバイスは一つもない。

 

しかしその時、私は気づいた。

そこには傾聴・共感・承認のプロセスがあったのだ。

「へ〜」=傾聴、「そうだよね〜」=共感、「分かる〜!」=承認。

 

彼女たちは、これらを通じて「私達はあなたのことをわかっているよ!」「そうなんだ!嬉しい!」というメッセージを送り合っていたんだ、と。

 

10年前、妻は私に向かって、「体温とかノドなんか見て終わり?私はただ『そうなんだ、辛いね』って言ってほしかっただけなのに。

 

あなたは私の話を聞いてくれない、私の苦しみを分かってくれる気もないんでしょ?だから私は悲しくてしかたがないの!」

と言っていたのだ。

 

緩和ケアの世界には「人は自分の苦しみをわかってくれる人がいるとうれしい」という名言がある。

 

私たち医師はもっともっと「傾聴」「共感」「承認」のコミュニケーションスキルを磨くことに注力を注ぐべきなのだろう。

 

いまでも多くの患者さんが、私の妻のような悲しい気持ちを押し殺し、それでも「作り笑い」で診察室を後にしているのかもしれないのだから。

 

 

 (本記事は令和元年11月29日掲載の森田洋之著、南日本新聞「南点」のテキスト版です。)

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