病院がなくなっても

幸せに暮らせる夕張市民

 

TEDxKagoshima 2014

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みなさん、こんにちは。白衣の男が出て来ました。僕は誰でしょう?

 

医者です(笑)。

 

 

 

医者が出てきたってことは、新しい治療法だったり、新しい健康法だったり、

 

そんな、いい話が聞けるんじゃないかな、とお思いかもしれません。

 

でも今日は、僕はそういう話は・・残念ながらしません。

 

じゃ、何を話すか。実はこれです。

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしいですよね?

 

医者が医療崩壊をすすめてどうするんだと。僕も思います(笑)

 

僕も本当は医療崩壊をすすめたいわけではありません。

 

 

じゃ、何で僕はこんなことを言ってるか。

 

実はですね、僕は医者になる前、経済学部を卒業してます。

 

で、一から医学部に入り直して卒業して、医者になりました。

 

もちろん経済も良かったんですけど、何か直接人の役に立てる仕事って

 

何かないかなと思って、医者になりました。

 

 

医師免許取って、僕は内科医なので大きな病院でですね、

 

胃カメラしたり、そういうことをしました。

 

そうすると、ほかの病院の先生、病院の中のほかの先生から、

 

うちの患者さん、ご飯食べられなくなったから、

 

先生胃カメラ出来るから胃瘻(いろう)入れてくれないか、

 

そんな話がよく来るようになりました。

 

 

 

胃瘻っていうのはですね、

 

みなさんご存知かもしれないですけども、

 

お腹に穴を開けて直接胃に栄養を送る、そういう栄養法です。

 

僕も最初は全然うまく出来なかったんですけど、

 

何例も何例もやってるうちに、だんだん上手になってきて、

 

ほかの先生からも「上手くなったね」とか言われて、

 

得意になってた時期がありました。

 

 

 

そんな時に、近くの高齢者施設に行ったら、

 

すごくショックだったことがありました。

 

それは、ほとんどの病棟にいる患者さんが

 

ほとんど寝たきりで、胃瘻されていた。

 

そしてその患者さん、ほとんど意識がない。

 

寝たきりで意識がなくて、会話もできない。

 

痛いも痒いも言えない。その状態で何年も、長い人は10年以上です。

 

 

 

その状態を見た時に、僕は本当にショックを受けました。

 

医者を辞めようかなとも思いました。

 

人の役に立とうと思って医者になった・・

 

それなのに、全く人の役に立ってるという実感がわかなかった。

 

僕は医者を辞めようと思いながら、悩んでいました。

 

 

 

その時ちょうど、北海道の夕張市というところが財政破綻して、

 

医療崩壊して、そこで頑張っている先生、村上先生という人が、

 

予防医療とかそういうことで頑張ってるということで、

 

救いを求めて夕張に行きました。

 

 

 

今日はそんな話をしようかなと思っています。

 

 

 

さあ、夕張市。みなさんご存知ですか。

 

北海道のだいたい真ん中辺りにあります。

 

北海道の中では札幌にもかなり近いほうなんですけど、

 

でもそれでも60kmあります。

 

60kmっていうと、鹿児島で言えばだいたい錦江湾ひとつ、

 

丸々入るくらい。それくらいの距離ですね。

 

意外と遠いですね、そういう意味では。

 

 

 

夕張といえばみなさん、ね、メロンですね。その通り。

 

メロン、そしてさっき言った財政破綻。

 

この2つが有名ですね。でも実は、一番大事なものがあります。

 

これ、日本一なんですけど、有名じゃない。

 

でも一番大事だと思います。何でしょう? 

 

 

 

……実は、高齢化率。高齢化率が45%で日本一です。

 

 

 

 

 

 

 

 

今、日本全体が25%。だからほぼ倍ですね。これだけ高齢者が多い。

 

 

日本一高齢者が多い所で、普通に考えたらですよ、

 

医療は充実してくれなきゃ、って考えますよね。

 

 

 

....でも、さっき言ったように医療崩壊してしまった。

 

医療崩壊。一言でいいますけど、具体的にはこういう事です。

 

 

 

 

 

 

それまではですね、夕張市内に総合病院がひとつあって、171床。

 

それが医療崩壊、財政破綻によって市がお金をもう出せないよ、

 

市立病院は継続出来ませんってことで小さな診療所、19床になりました。

 

病床はほぼ10分の1ですね。

 

 

 

もちろん医者も去りました。

 

医療機器も、何と今は夕張市内にCT、MRI、一台も無い。

 

ゼロ台です。市内にですよ、病院にではなくて.....。

 

 

 

しかも救急病院も無くなった。

 

救急病院が無くなるということは、こういうことです。

 

救急車が病院まで到着する時間。

 

これまで30分台だったんだけど、なんとほぼ2倍、60分台になりました。

 

 

 

 

 

もちろん、ちょっとした風邪とか発熱くらいだったら

 

市内の診療所で僕らが診ます。

 

 

 

ただ、例えば心筋梗塞、交通事故で大ケガしたとか、そうなったとき、

 

札幌の病院までドクターヘリで行ってもらいます。

 

となると、必然的に時間は延びますよね。

 

 

 

 

 

 

 

じゃ、この状況で夕張市民、生活できると思いますか?

 

不安でしょうがないですよね。でも僕が行ってみたら、

 

夕張市民はすごく元気でした。

 

 

 

どういうことか?

 

 

 

  

 

 



 

 

 

 

 

 

例えばこの人。お若く見えますけど、実は60代です。

 

60代の女性。もうすぐお孫さん、中学生です。

 

(聴衆ざわめく)

 

 

 

すごいですよね。この人は診療所の近くで床屋さんをやってて、

 

町の中心人物です。

 

夜な夜なこの人の家で飲み会が開催されるというね。

 

もちろん僕も参加する(笑)。

 

 

 

そこでどんな話がされるかというとですね、今日は何万歩も歩いた、

 

今日は雪かきを何時間した、血圧はこんだけ今下がってるぞ、とかですね、

 

私はガンを早期発見して治療したとか、

 

そういう良い話ばっかり聞くんですね。

 

 

 

で、この写真の人が何をやってるかと先ほどからちょっと

 

不思議に思ってるかもしれないですけど、

 

この人、私は病院は絶対行かない、医者は嫌いだって言うんです。

 

 

 

もちろん、大きな病気とか大きなケガとかした時は

 

お医者さんのところへ行くけども、

 

それまでは私は出来るだけ自分の免疫力を頼りにする、

 

だから免疫力を上げる、そのためにストレッチをやるんだ!って言って、

 

座布団を押しのけてストレッチをしてくれてる姿が、これです。

 

そこを僕が激写したと(笑)。

 

 

 

でもですよ、CTもMRIも医療機器も、全ての医療機器は道具です。

 

健康で長生きをするための道具ですよね。

 

もし、それがなくても健康が保たれるのであれば、

 

それは非常に素晴らしいことです。

 

近くに総合病院があるということよりも、

 

市民の意識が変わるってことが、病院があること以上に価値があることだと僕は思います。

 

 

 

 

 

 

 

50代、60代で元気な人は、まあいいでしょう。

 

じゃ、80代、90代の爺ちゃん婆ちゃん。

 

さすがに病院がなかったら不安でしょうがないんじゃないかと思いませんか?

 

 

 

思いますよね?

 

 

 

 

 

 

 

この方、90代の女性、お婆ちゃんです。まだお元気な頃の写真。

 

この人ですね、診療所で肺に影が見つかって札幌の病院で検査しました。

 

そしたら肺がんが見つかったんですね。肺がんが見つかったら、

 

普通は抗がん剤をやるとか、入院して治療しましょう、って話になります。

 

もちろんそういう話をされたそうですが、このお婆ちゃん、

 

札幌に行って1回検査をしたきり、2度と行かなかった。

 

夕張に帰って、最後まで生活しました。

 

 

 

その亡くなる直前の写真がこれ。すごく良い笑顔ですよね。

 

亡くなる前の日の晩まで、まんじゅうを食べてたそうです。

 

好きなものを食べて、ご家族に、地域の人々に囲まれながら、

 

最後まで生活することをこの人は選んだということですね。

 

 

 

こういうことをしている高齢者がいっぱいいるわけです。

 

よくよく考えたら、僕が総合病院時代に感じていた事、

 

胃瘻の方がいっぱいいるような世界。

 

夕張では、そういう生き生きとしていない高齢者はひとりもいませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、これは僕の印象です。

 

何か夕張にはすごい世界が広がってるなって思ってましたけど、

 

実は印象だけじゃなくて、数字にも出ていました。

 

 

 

例えば、救急車の出動回数。下がっちゃったんですね。

 

 

 

ちなみに全国的にはこの10年でほぼ1.5倍。

 

高齢化率が高まれば高まるほど、救急車の出動回数はドンドン増える。

 

普通に考えたらそうだと思います。

 

 

 

でも、高齢化率1番の夕張市。高齢化率下がってはいないんですよ、

 

まだまだ上がってるんです。

 

2、3年前は43%でした。今45%。まだまだ上がってる。

 

 

 

でも何と救急車の出動回数がこうなっちゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ半分ですね。救急車が呼ばれなくなった。どういうこと?

 

 

 

実はさっきのお婆ちゃん、救急車呼ばないんです。

 

なぜ? だって、もう、命の終わりを受け入れてるんですね。

 

救急車っていうのは、この命を助けてくれ、

 

っていう叫びのもとに呼ばれるものです。

 

 

 

あのお婆ちゃんは、助けてくれって思ってないんです。

 

最後まで自分の家で生活したいって思ってるんです。

 

 

 

だから呼ぶのは訪問看護師、在宅医。

 

もちろん、発熱とか一時的なことで、これは良くなるよってことであれば

 

家で点滴したりして治療します。

 

でもそうでない時は、残念ながらお看取りすると。

 

 

 

そういう世界です。

 

 

 

だから救急車が減る。しかも医療費も減っちゃったんですね。

 

高齢者一人当たりの医療費。全国的にはものすごい勢いで増えてます。

 

 

 

夕張市は一時よりだいぶ下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

すごいですよね。たぶん、救急車が減るとか、高齢者の医療費が減るとか、

 

そういう地域って全国でもほとんどないと思います。

 

でも夕張市は出来た。

 

 

 

しかもですね、何と死亡率まで下がっちゃったんです。

 

 日本人の死因の1位がガン。2位が心臓系。3位が肺炎。1、2、3、全部下がっちゃった。

 

すごいですよね。

 

 

 

何がポイントか。多分、僕が思うに一つは予防の意識ですね。

 

市民が予防のほうに意識を変える。

 

病院があるから安心、ではなくて、しっかり自分で出来る事はやるんだぞ、と。

 

この予防の意識。

 

 

 

日本人の病気の大部分は、生活習慣病からおきているといいます。

 

だったら、生活習慣を変えればいいじゃないですか。

 

みんなわかってるけど、できない。

 

 

 

あともうひとつ。これが大事。終末期医療。

 

 

 

残念ながら日本人の死亡率は100%。日本人だけじゃないですけどね(笑)。

 

 

 

いずれ医療が解決できない問題がやってきます。

 

その時に、しっかりと終末期のイメージを持っているか、持っていないか。

 

家族と話し合っているか、話し合っていないか。

 

地域の人たちとそういう話をしているか、していないか。

 

 

 

もちろん、文章にまとめてればいいですよ。

 

でも、そこまででなくても、地域で話をしている、家族で話をしている、

 

その事実があるだけでも結果は全然違うと思います。

 

 

 

さらに、地域社会。若い時は予防の意識を高める。

 

地域のみんなで予防の意識を高める。

 

そして年をとってきたら、地域みんなでその命を受け止める。

 

そういうあたたかい地域社会を作る。

 

 

 

これがポイントだと思います。

 

 

 

 

 

でもこれ、夕張市民だから出来たんでしょう、ってよく言われるんです。

 

市が財政破綻したから、そんな夕張市民だから出来たんでしょって、

 

鼻で笑われることがあります。一緒にするなと(笑)。

 

 

 

 

 

確かに夕張市民は危機感があったからできた、かも知れない。

 

でもじゃあ僕ら日本人は、危機感を持たなくていいのか。

 

僕は危機感を持ったほうがいいと思います。

 

なぜならば、今、国全体の借金は1200兆円って言われてますね。

 

中央政府と地方自治体の借金を合わ

 

せたら1200兆円。これを一人当たりにすると、1人1000万。

 

皆さん1000万負債を抱えてます。

 

 

 

ただ、今生まれたばかりの赤ん坊と、90代の爺ちゃん婆ちゃんを比べたら、

 

赤ん坊はこれから長く返していかなきゃいけない。差がありますよね。

 

となると、今生まれてきた赤ん坊は、生まれた瞬間に8300万円の借金を

 

背負った状態で生まれてくるという計算をする先生もいます。

 

 

 

しかも、これは現時点での数字です。これから高齢化率はドンドン増える。

 

 

 

 

 

 

 

今日本がここです、25%。数十年後には40%になります。

 

じゃあ、高齢化率が2倍になったら、借金も2倍になるんですか……?

 

医療費はどんどん上がってますもんね。ちなみに夕張は今ここです。

 

 

 

かなり先取りしてますね。でも日本中が夕張みたいに高齢化率が高くなる。

 

爺ちゃん婆ちゃんばっかりになる。そんな世界になります。

 

 

 

しかもこれから人口はドンドン減るらしいです。

 

今までの100年は異常な100年でした。

 

それまでずっと、1000万、2000万、3000万でほぼ横ばいだったのに、

 

この100年でなんと1億2000万になった。

 

 

 

これからはこうなるらしいです。良くて半分、悪いと3分の1、4分の1。

 

 

 

 

 

 

 

今までの意識で今後の100年を乗り切れるという保証は無いですね。

 

意識を変えなきゃいけない。

 

 

 

病院が欲しい、何々が欲しい、あれも欲しいこれも欲しいという時代から、

 

病院がなくてもやっていけるよっていうような時代、

 

そんな時代になっていくべきじゃないかなと思います。

 

 

 

 

 

じゃ、もう日本に未来はないの?夢はないの?

 

そんなことはないと思います。これ見てください。

 

 

 

 

 

 

 

日本は高齢化率ずっと世界一なんです。これからもね。

 

日本だけじゃないですよ、世界中が高齢化率が上がっていく。

 

 

 

さらにこれ、『エコノミスト』っていう雑誌の表紙なんですけど、

 

日本の子供が日の丸に押しつぶされてます。

 

 

 

 

 

 

こんなショッキングな特集されるのも、日本が注目されているからです。

 

世界中が解決できない高齢化問題、日本はその世界一、トップランナーなんです。

 

世界中が注目してます。だからこんなこと言われるんですね。

 

 

 

じゃ、どうするか? 

 

世界中の医療費はドンドン上がってます。

 

アメリカ・フランス・カナダ・イギリス、

 

これからも高齢化率ドンドン高くなる。

 

多分、医療費も上がっていくでしょう。

 

 

 

・・・でも夕張は下げられた!

 

じゃ、日本も夕張の真似すればいいんじゃないか。そしたらこうなる。

 

 

 

 

 

 

 

もしこうなったら世界中がビックリしますよね。

 

世界中から尊敬される高齢化対策を出来る、日本になれると思います。

 

これを僕は「夕張モデル」って言ってますけど、

 

これからは「日本モデル」にしなければいけないなと思ってます。

 

 

 

そんな思いで僕は九州に帰ってきました。

 

 

 

思い出してください。2007年、夕張市が財政破綻したときのこと。

 

 

 

夕張市民はどうなっちゃうんだろう、可哀想だな、と思いませんでしたか?

 

僕は九州で思ってました・・・。

 

 

 

でも、もしかしたら、今可哀想なのは僕らかもしれない。

 

夕張市民はわかった。

 

でも僕らは、もしかしたら、気づいてない。

 

もしかしたら気づいてないフリをしているのかも知れない。

 

 

 

鹿児島は明治時代に日本を変えた実績を持っています。

 

鹿児島が変われば日本が変わる。

 

 

 

日本が変われば世界が変わると、僕は勝手に思ってます。

 

何かこう考えるとワクワクしますよね。

 

 

 

軍事力でもなく、政治力でもなく、経済力でもなく、

 

高齢化対策で日本は世界のリーダーになれる。

 

そんなことを僕は考えています。

 

 

 

一緒にワクワクしながら世界を変えてみませんか?(笑)

 

 

 

ご清聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  森田 洋之

 

横浜生まれ、一橋大学経済学部卒、宮崎医科大学卒。日本内科学会認定内科医。

北海道・夕張市立診療所院長を経て、現在は鹿児島県にて南日本ヘルスリサーチラボ代表。

平成23年、東京大学大学院H-PAC千葉・夕張グループにて夕張市の医療環境変化について研究。

平成24年、週刊日本醫事新報にて「夕張希望の杜の軌跡」を1年間連載。
平成26年、TEDxKagoshima出演。講演の文字起こしサイトに15万「いいね」がつく。

  同年、研究論文「夕張市における高齢者一人あたり診療費減少に対する要因分析」 (社会保険旬報 No.2584, 2014.11.1)発表

平成27年、「破綻からの奇蹟〜いま夕張市民から学ぶこと〜」を南日本ヘルスリサーチラボより出版


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以上の講演の動画はこちら(TEDxKagoshima, 2014)

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