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医療市場の失敗とは?〜ガラパゴス化した日本医療の不都合な真実〜

医療市場の失敗とは?〜ガラパゴス化した日本医療の不都合な真実〜
医療市場の失敗とは?〜ガラパゴス化した日本医療の不都合な真実〜

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ガラパゴス化した日本医療

 

 


2017年4月28日、医療業界の根底を揺るがす驚愕のデータが明らかになりました。
以下の内閣府のリンクに詳細に書かれているのですが、




医療提供状況の地域差(都道府県別、二次医療圏別、市区町村別)
~評価・分析WG(4月) 藤森委員提出資料より~
平成29年4月28日 内閣府
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/committee/290428/sankou1.pdf

これを少し噛み砕いて解説し、後半でその大きな要因の一つである「医療市場の失敗」を中心に考えたいと思います。

まず上記内閣府のデータから、このグラフを御覧ください。

人口あたりの『胃瘻からの栄養注入(入院患者・年齢構成調整済み)の費用』を都道府県別に『見える化』したものです。





内閣府の都道府県別「胃ろう」の実態調査
内閣府の都道府県別「胃ろう」の実態調査

ちなみに今回紹介するデータは年齢調構成を整済みです。つまり、都道府県ごとに高齢化率が高い県も低い県もあるので、それも調整してナラシ済みということ。ただし、データの特性上『生活保護』受給者の医療はカウントされていません。また数字は全国平均を100とした時の各県の値で、実数ではありません。)

 

 

なんと、沖縄県が345と日本一。沖縄では全国平均の3倍以上も胃瘻が普及しているんですね〜。ふむふむ。2位が大分で278か…しかし、お隣の熊本は91だから、3倍も差があるんだな〜。

 

 

あと、胃瘻造設術(胃瘻を造る手術)の件数もあります。

 

 

 

 

 

内閣府の都道府県別「胃ろう造設手術数」の実態調査
内閣府の都道府県別「胃ろう造設手術数」の実態調査

 

 

 

 

やっぱり沖縄がトップ!…だいたい同じような傾向ですね。それにしても…全国で1年間に5万9千件も胃瘻造設術が行われているのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

あと、こんなグラフも。MRIの撮影件数。北海道が135で、岩手県は49。岩手県、こんなに少なくて大丈夫!?

 

 

 

 

 

 

…でも実は世界に目を向けてみると、日本は突出したMRI大国、世界一MRIを持ってるんですね。アメリカの2倍、イギリスの約10倍。そう考えると、岩手県も実は世界標準くらいなのかも?…

 

出展:2017 OECD statics

https://data.oecd.org/healtheqt/magnetic-resonance-imaging-mri-units.htm#indicator-chart

 

 

 

 

あ、日本はCTも世界一持ってましたね。
しかもダントツ世界一で!(^_^;)

 

 

 

 

 

出展:OECD statics
https://data.oecd.org/healtheqt/computed-tomography-ct-scanners.htm#indicator-chart

 

 

 

 

らに、こんなのも。人口あたりの療養病棟入院基本料1(簡単に言うと『長期療養病院に入院中の患者さん(主に高齢者)の大まかな数』というところ)。

 

 

 

 

 

 

高知県は全国平均の3倍以上の324。最下位宮城県は全国平均よりはるかに低い、14しかない。20倍以上の差がある。

 

 

ちなみに、日本は世界の中では突出して病床の多い国なんですけど…。

 

 

 

 

出展:OECD Statics

https://data.oecd.org/healtheqt/hospital-beds.htm

 

事実として、人口あたりで、イギリスやデンマークの4倍以上の病床を持っているんですね。

そして、日本の中でも、地域差が大きいわけです。

 

 

ちなみに、さっきのグラフは「長期療養の患者さん」でしたが、よく「長期療養の患者さんだけで日本の医療を語られても困る」的なご意見をいただきます。

 

では、長期療養(慢性期医療)と短期(急性期医療)まで、それぞれ日本ではどれくらい病床があるのでしょうか。それを県別に見るとこんな感じになります。

 

 

出展:平成25年医療施設(動態)調査・病院報告の概況http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/13/dl/gaikyo.pdf

 

 

 

一番上の白いところがいわゆる急性期医療の「一般病床」それ以外の部分はほぼ精神・療養などの慢性期医療です。一般に「医療」というと「手術」とか「救急」のイメージが強いですが、病床数で見るとそのような急性期医療にもまして、精神・療養などの慢性期医療のボリュームがかなり大きいことがわかります。

そして、このグラフを見ておわかりの通り、県別で言うと高知県は滋賀県の2倍以上も病床を持っているんですね。

そして実は、病床が多い県の県民ほど、県民一人あたりの入院医療費が高いのです。

 

出展:財政制度等審議会 財政制度分科会 議事要旨等 平成30年10月30日 資料2

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia301030/02.pdf

 

 

 

でも残念ながら、、、

上記の通り日本はMRIなどの医療機器や病院・病床などのハード面は世界一多く、つまり医療提供量は世界でもトップレベルなのに、

医師数は少ない方なんですね (;_;)。

 

そりゃ現場では医師は疲弊します…(^_^;)。

 

 

出展: OECD statics

https://data.oecd.org/healthres/doctors.htm

 

 

 

あ、入院医療だけでなく外来医療も一緒。こんなに医師は少ないのに、医師への受診回数は世界第2位です…

 

 

 

出展:OECD Statics

https://data.oecd.org/healthcare/doctors-consultations.htm

 

 

なんだかこうして色々なデータを見てみると、日本は世界の中でも医療を巡る環境が非常に特殊な状況であることがわかります。まさにガラパゴス化していると言っていいのではないでしょうか。

 

しかも、その日本の中でも地域差が非常に大きいということもわかりました。

ちなみに、都道府県別の健康寿命・平均寿命などの健康指標と医療提供・医療費の量の間には、あまり相関関係はありません。そりゃそうですよね。滋賀県は高知県の半分しか病床をもっていないから寿命が短い?かというとそんなことはなく、滋賀県は全国トップクラスの寿命を誇っています。同じく平均寿命全国トップクラスの長野県も病床は少ない方。

つまり医療費が多い・少ないは健康や寿命に影響してなさそうということ。

 

こうしてみると、医療の提供体制っていうものが、実はかなり国や地域によって、かなりバラバラで結構いい加減?

 

◎地域には一定数の病人がいるから、その分だけ病院・病床がある

◎病院・医療があるから健康でいられる


と言うのが一般的なイメージだけど、現実のデータはそれが実は『思い違い』だったということを教えてくれます。

 

 

こんなデータを見ると、

 

『命を守る医療なのに、そんないい加減なことでいいのか!』

 

と怒られそうです。

 

 

そうですよね。少なくとも、

 

『限りある貴重な医療資源が各県でまちまちに、最大20倍もの格差をもって提供されているという現実は、国民が受ける『医療の公平性』という意味で問題がある』

 

と考えるのは、至極まっとうなご意見だと思います。

 

では、そもそも、なぜ、日本は世界一の病床数・医療機器を持っているのか。その潤沢な医療資源が、なぜ、こんなに各県でバラバラに提供されているのか。なぜそうなるのかについて「医療市場の失敗」をキーワードに考えてみましょう。

 

 

医療市場の失敗とは

 


そもそも『市場の失敗』とは何か?

聞きなれない方も多いと思うので解説しますと……

 

まず前提として今の日本は資本主義で『自由市場経済』が前提の国です。

 

パンを例に考えてみます。日本ではパンを作って売るのは自由です。買うのも自由です。1個1000円の高級パンもあっていいし、10個100円のリーズナブルなパンがあってもいい。そうやってみんなが自由に値段を付けて、好きな量を売って、買う方も好きなものを好きなだけ買う、買わないことも出来る。そんな世界を『自由市場 (free market)』と言います。自由市場においては、高いパンも安いパンもあっていいけど、売る方としては一番儲かる値段と量のところで売りたいから、物の値段と量はある一定のところに収束します(パンなら大体1個100円?パン屋さんは街に1~2店くらい?)。もしパン屋が多くなりすぎたら(供給過剰になれば)「質の悪い(高くて美味しくない)店から」徐々に潰れていく。つまり、自由市場では過当競争になれば、売り手が淘汰され、また一定の価格と量に収束すると。これが「市場メカニズム」というもので、この「市場メカニズム」を通すことによって自動的に、 市民全員に適切な価格で適切な分量のパンが分配される、というわけですね。これが、経済学的に『最適な状態(パレート最適)』と言われる状態です。逆に、『市場メカニズム』を通しても『最適な状態』にならない、これが『市場の失敗』です。

 世界一の病床・医療機器を持つ日本は、世界的に見れば『供給過剰・過当競争』の世界と言っていいでしょう(もちろん医療の中でもそうでない分野もあると思いますが)。しかし、日本で起こっているのは、「質の悪い病院」が淘汰される世界ではなく、県民一人あたりの医療費が増える(医療消費が増える)世界。医療提供量・需用量も地域差が著しい。このことは、前述のとおり客観的データとしてに如実に現れています。少なくとも、経済学的な最適な状態=『医療が全国民に適切な量だけ分配されている状態』とは言いにくい状態です。これは、まさしく『市場の失敗』と言っていいでしょう。

 では、なぜ日本の医療では『市場の失敗』が起こっているのか。これは幾つか理由があって、ちょっと話がややこしくなるのですが…。ま、超簡単に言うと、こんなところ。


◎モラルハザード

健康保険があるので、自己負担(病院に直接払う額)は非常に安い。5000円のフランス料理も、自己負担1割なら500円で買える(あとの4500円は保険で払われる)。それなら1日3食フランス料理(しかも宅配してくれたりして)を食べる、という意識になりかねない。


◎情報の非対称性

パンの安い高い・美味い不味いは判断できても、高度な専門知識を要する医療の世界で、その医療が『良い医療なのか、そうでないのか』は多くの国民には分かりにくい。
患者側で判断出来るのは医師がやさしいか?とか、待ち時間が長くないか?とか、受付の愛想がいいか?そういう表面的なところでしょう。(まぁ、そのへんも大事ではあるのですが、医療の質という意味でそれにもまして大事なのは、手術の技術とか、内科的知識の量とかそういう本質的なところですよね)

食べたパンの味がわからない状態でどのパン屋がいいとか悪いとか言っても全然意味がないのです。

しかも、パンと違って「お腹いっぱい」がないので、医療は際限なく需要(提供)されてしまうことだってありえます。一般的なクリニックの外来は、マサージ目的やら栄養の点滴をしてくれやら先生の顔を見たいやら、そんな高齢者でいっぱいです。また、大して状態に変化がないのに、血圧や糖尿の薬を毎月貰いに行くようなことはありませんか?他の先進諸国では3〜6ヶ月毎受診が当たり前です。
「お腹いっぱいがない」というのはそういうことです。

 

このあたりは、津川友介先生の『なぜ医療に市場原理は通用しないのか?』でもっと詳しく解説されておりますので、そちらもおすすめです。
 ↓↓
「なぜ医療に市場原理は通用しないのか?」
https://healthpolicyhealthecon.com/2014/06/09/market-failure-in-healthcare/

 

 

つまり、『失敗が起こりうる市場』において、それでも『医療の提供は各医療機関の自由、医療の需要も各国民の自由』に任せてた…そんな状況でも漠然と

 

『質の悪い病院は淘汰されていき、各地で適切な医療の量になっていくだろう』

 

と想定していたけど、蓋を開けてみたら全然そんなことなかったよ。実は「淘汰」ではなく「過剰供給・過剰需要」が発生していて、しかもものすごい地域差が出ちゃってて、

 

やっぱり『市場の失敗』だったよ(ノД`)。

 

ということが、今回の内閣府の『医療の見える化』で露呈したわけです。結構衝撃ですよね。

 

じゃ、どうすればいいのか、という問いにも、経済学者は答えてくれています。諸説ありますが…僕が好きなのは、ノーベル賞候補と言われた故・宇沢弘文先生のご意見。「社会的共通資本」という考えかたです。ま、長くなるので『社会的共通資本』についての詳細は次回で。

 

ま、そもそも、『医療』を「私的資本」と考えて、その提供を自由市場に委ねてるのは日本含めごく一部の国で、ほとんどの先進諸国(米国を除く)では、「医療」は「警察・消防」と同じ「Public(公的)」な存在です。各医師も金銭的動機以上に、「公」としての使命感でそういう心づもりで医療を提供していることが多いですし、また病院・診療所も国全体で計画的に配置している場合が殆どです。ま、それなら、こんなに地域差が出る訳ありませんよね。(一部例外もあります)

 

実は、僕がいた夕張の話をすると、よく『病院がなくなったから医療費が減った』と受けとられるんですが、振り返ってみると実は夕張の医療の礎を築いた村上先生・永森先生の偉業の真髄はそこではなく、本当に患者さん一人一人の生活に寄り添い、希望を聞き出し、希望に合った医療を「公(public)」として過不足なく提供しようと思ったら、高齢者日本一の街では胃瘻もCTも病床も殆ど要らなかった…ということなんだと思います。


事実、財政破綻で市内の病床数が171床から19床に激減したものの、実際に使われていたのは平均5〜6床くらい、あとは在宅・施設でみんな最期まで楽しそうに生活していました。「市場原理」に従って病院経営を考えれば「病床を埋める」が正解なんですけどね。そうではなく、あくまでも「患者本位」の「公的存在」。そうした医療があったからこそ、夕張は医療崩壊を乗り越えられたんじゃないかな〜、と思います。

そういう意味では、今後の日本を襲う

「人類がこれまで経験したことのない驚異的な高齢化社会」

を迎えるにあたって一番大事なことって、

 

金銭的・市場的動機に縛られない真の「公」として、過不足なく医療が提供できる医師の育成

 

 

にかかっているのではないか、という気もしてきます。

今の日本の医療の中でそれに近い分野は「在宅医療」や「家庭医療」などでしょうかね。ま、その他の各分野でもそういう先生はおられるでしょうけど。

 

今回は、内閣府の衝撃データから「市場の失敗」までを考えてみました。。

 

国民の側から見れば、適切な医療体制に近づいてくれればそれが一番ですから、そういう意味では、内閣府にはこれからもどんどん『見える化』してほしいですね。期待したいところです。

 

 

 

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